2020年8月31日月曜日

巡礼の年 第3年 イタリアより 「エステ荘の噴水」

 巡礼の年第3年 イタリアよりS.163/R.10 A283Liszt, Franz:Années de pèlerinage troisième année "Les jeux d'eaux a la Villa d'Este

この曲は、演奏活動を再開したころに弾いた一連の曲の中で、わたしにとっては重要な転換点となった作品です。技巧的には、上級の下のほう、に位置するかと思います。

転換点というのは、楽譜通りにきっちり弾いても何も伝えることができないということを実感したから、どのように聞こえるのかを計算することの大切さがあるということ、それは感性だけで実行できる演奏家もいると思うのですが、理論的に考えることはとても大事だと気付いたことでした。、この曲が重要である点は、ピアノ史上、もっとも重要な作曲家の一人であるリストの書法が一通り学べる作品でもあるからでしょう。リストは、幾何学的で数学的な頭脳で、理論的な作曲をしますが、本質はロマンチックで夢みる人です。そして敬虔なキリスト教徒であります。そのすべてがこの曲にあります。

和声構造は複雑に変化しますが、移行は数学的です。曲としては、大きな和音で作られる主題と、トレモロ・トリルと分散和音で構成されています。印象派のように、水の様々な動きを現していますが、焦点はキリストの出現(144小節目以降)にあります。ここから先を、大船に乗ったような雄大さで描きたいところです。。

技術的には、高低差の大きい分散和音と、重音トリルが問題なく弾けることが条件です。加えて、転がるような音色のために、1/4刻みぐらいのタッチコントロールが最低でも必要でしょう。ペダル操作も重要、大きいところは踏みっぱなし、細かい水の陰影を出したいところはペダルの深さを変え、ビブラートなどを使ってください。

細かい部分を見ていきましょう。

前奏に当たる部分(39小節まで)は水の表現です。緩急をつけ、始めと終わりを少し遅く、真ん中を早く演奏するようにして、ピークがわかるように少し短めのスパンを意識し、なおかつ全体的な流れを大きくとるとよいと思います。ppのところは水がポトンと滴るような感じ。

Um poco Marcato=40小節からは上の声部に甘美な主題が現れ、左に応答型があります。主題は左に降りたりするので、しっかり出しましょう。細かい音はすべて水の表現で、装飾ですから大きく響きすぎないように、1/4タッチぐらいで。素晴らしいものの予感。

144小節から三段譜になったところはキリストの出現です。D-durに転調していて、輝かしい印象とともに出現します。右に大きな主題、続いて、左の上の声部に大きな主題が出ます。演奏が難しい場所ですが、落ち着いて左手親指でテーマをしっかり。

158小節でFis-durに回帰したあとは、救いを見た安堵の心地です。途中でA-dur左で大きくテーマを拾う部分があり、余談ですが、このあたりに使われる音階はリストらしいハンガリー的な音階になっていて、個人的にとても好きな部分であります。204小節からFisに回帰します214小節冒頭の八分休符は大きく呼吸をしてください。ゆったりと大きく、Briosoからの水のきらめきは天国のように。最後は、大船に乗って海原に出るように、またはあこがれの新大陸が見えたかのように。

構成はこのように、大きく4つ、主題は宗教的な救いの音楽であります。具体的になにを思い浮かべても良いのです、大きな素晴らしいものに出会った、という演奏をするとよいかなと思います。

この曲を弾く方は、それなりに弾ける方だと思います。技術は練習でカバーできます。必ず弾けるはずです。楽曲がすばらしいですから、楽譜通りに音を出すだけでも素敵ですが、それでは非常につまらない。それより上の、印象に残る音楽、のためには、ここを聞いてほしい、というエネルギーを考えている5倍ぐらい注入することだろうな、弱音のなかの主張にはさらに10倍の魂を込めることだろうな、とわたくしは思います。テクニカルには、accelをかけるところ、rubatoで緩めるところの緩急をバランスよくとることでしょうか。


★楽譜の選択:ムジカ・ブダペスト・リスト原典版 またはヘンレ版をお勧めします。

ノクターン 作品27-2 (夜想曲 第八番)

 ノクターン第8番 Op.27-2 CT115 変ニ長調

Chopin, Frederic:Nocturnes Nocturne No.8 Des-Dur Op.27-2 CT115

ショパンのノクターンを弾きなおそう、というのは、演奏再開後初期の大きな目標でした。若いころには弾ききれなかったあれやこれや(表現力的な)、があったから、です。大きな作品群を弾くときにも必ず必要になるショパン的な要素を学ぶには最適。ノクターンを夜想曲と訳したのは、どなたなのか、素晴らしいセンスだと思う。

弾きなおした順は、9、10、11、12、7、8、15、16、17、18、13、14、3、5でした。

さて。そのノクターンの中から、私の大好きな第8番です。

変ニ長調、幸せ感のある調です。

8/6拍子、左手はずっと16分音符の6連符で波を作ります。2拍子系だと思って弾くと推進力がでます。最初の2音を少し早く、あとはゆったり、音量は3音目より後ろが大きくならないように。

右手はそれに乗ってメロディーを奏でます。1回目はシンプルに。第2主題からは重音になり、広がりを作る。Con forzaはひとつの頂点ですが、まだ前半ですから、決してたたくような音を出さないで丁寧に。第2部、第1主題の回帰からは、右手に多彩な技巧がでてきます。軽やかに、夢見るように。回想のような部分にしてみてください。弾きにくければ左手のテンポをそれなりに落としたりしてみてください。

第3部はTempo 1から再び第1主題です。大きく、雄大に歌ってください。途中、右手にちいさな技巧がちりばめられた宝石のような部分があります。タッチはハーフ以下にして、ペダルを上手に使って、曇らないように弾きたいところ。

Con forzaから、appassionataは、あらん限りの情熱を、しかし、決して押しつけがましくならないように。

A tempoからはfinaleです、波が押しては戻るように、右に二つの波がでてきます。ゆるやかにテンポルバートで表現してください。静かに、静かに幕を閉じます。わたしは、ここはいつも、あなたにあえて良かった、また会いましょうね、と思って弾きます。でも、次の約束はありません。

大切にしたい音は、左手バスのルート音=6連符の頭、と、内声で変化するところ。左手の3音目にアクセント記号などは重要です。右手が華やかに動くので気を取られますが、左手だけで充分に歌えるようにするとよいと思います。これは、ショパンに限らず、かなりの曲についても言えることかと思います。

小品を弾こう

2020年は消去したいほどの一年になってしまいそう。そうはさせないぞ!
演奏会は開けず、オンラインではもの足りず。ならば研鑽のstay-homeにしようではないか。
と思いたったのはロックダウン最中のGWでした。しかし、医療職は多忙をきわめ、防護衣は暑すぎ、ゴーグルで視界は曇り、管理者としては新しい制度を山のように決めなければならず、消耗した。
ちょっとウィルスの性質が変わったかな、と思ったら、猛暑で死にかけた、もともと暑さに弱すぎで。
さて、本題、積ん読にもなっていない楽譜がたくさんある。小品が多く、1,2曲は弾いたけど、がほとんど。
演奏会プログラムには全曲なら成り立ちそうなものもたくさんあるし、この際、1週間に1,2曲ぐらい弾いて見ようと思いたった。エアコンの中で、8月からぼちぼちやっている。
候補の曲集はこんな感じ。たくさんある。

シューマン 子供の情景、パピヨン
スクリャービン プレリュードop11、詩曲
プロコフィエフ 束の間の幻影、ロメオとジュリエット、シンデレラ
アルカン エスキス、プレリュード、エチュード
メリカント ピアノアルバム(全音)
カスキ ピアノ小品集(全音)
パルムグレン ピアノ名曲集(全音)
シベリウス 花の組曲、樹木の組曲
メトネル 忘れられた調べ
シマノフスキ マズルカ
メンデルスゾーン 無言歌集
アルベニス スペインの歌、スペイン組曲
アルベニス 性格的小品集op92

そのほかに、ずっとやっている特集もの
☆プレリュード特集
ショパン プレリュード
ショスタコーヴィチ プレリュードとフーガ
ドビュッシー プレリュード1;II(今はこれ)
☆マズルカ特集
スクリャービン
シマノフスキ
ショパン (まだまだずっとこれ)
パルムグレン 
☆変奏曲特集
ベートーヴェン(ディアベリ;エロイカ)
ハイドンいくつか(いまはこれ)
ブラームス(ショパンの主題、主題と変奏)

小曲シリーズ、今のところ、シベリウスの樹木とシューマンの子供の情景をやっている。
何曲か弾いたら、なにか書いてみます。



2020年8月7日金曜日

美術とわたし

小さいころから絵をかくのが好きだった。
習ったわけでもなく、なんとなく落書き。
小さい子はみんなそうかな。
幼稚園のとき、母の日に母の絵を描いた。
真っ赤な髪の毛が爆発していた。
なにやら賞をもらい、絵は1年ほど幼稚園に飾られていた。
小学校のとき、美術でペーパークラフトのボックスを作った。
6角形の蓋つきで、3色の配色をした。
なにやら賞をもらい、作品は1年ほど美術室に飾られていた。
デッサンもできないし、なにも習ったわけじゃないから、わたし自身はなにものでもないが、そんなわけで、美術を見るのは好きになった。
旅行も、美術館に行こう!が目標だったりする。
そんなわけで、美術展や画廊のはなし、がけっこう頻繁に登場します。

平均律第一巻 序

  「うまく調律されたクラヴィーア(Das Wohltemperirte Clavier)、あるいは、長三度つまりドレミ、短三度つまりレミファにかかわるすべての全音と半音を用いたプレリュードとフーガ。音楽を学ぶ意欲のある若者たちの役に立つように、また、この勉強にすでに熟達した人た...