2020年11月25日水曜日

ノクターン 作品62-1 (夜想曲 第十七番)

 Chopin, Frederic:Nocturnes Nocturne No.17 H-Dur Op.62-1 CT124

ポリフォニーの音楽。作品62-2と共に出版、同じケンネリッツ嬢に献呈された。

冒頭のカデンツァは唐突な感じを受けるが、前奏であろう。こういう部分がある曲は、ピアノの調子やその日の倍音の響き具合などを試すことができて、ありがたい。

ロ長調。ゆったりとしたこの曲では、澄み切った美しい印象を作る。

第一主題。左の伴奏音型では、二拍目に少し重さがある。小節線はあまり役に立たない。バロックの踊りのような感じだろうか。主題は右のソプラノだったり、アルトだったり、いくつかの不確定な声部に内声として再現されてくる。これもポリフォニックでフーガ的である。しかし、あくまで優雅。

経過部分、21小節からは、左にシンコペーション(オスティナート)。13番のノクターンでは強い印象を与えた音型だが、ここでは、少し進む印象はあるが、あくまで、優しい。その上に、コロラトゥーラのようにソプラノが、控えめに歌う。霧の湖面に、そっと風が吹くように。わずか4小節の経過分だが、おそらくこの曲で最も感性が問われる部分だと思う。繊細に繊細に。音量変化も、音色変化も。

中間部は、変イ長調になる。霧の向こうに、進んでいこうとする。左手に推進力がほしいが、引き戻されるような感覚も欲しい。

トリルの中に旋律を埋め込む技法で、確かに演奏難易度は上がるわけであるが、左でしっかり音楽を作り、リズムを作り、右手は、ハチドリのようなトリルの中で歌わせることになる。なんてことはない、という感じで弾きたいわけである。この技法、少々前の時代にベートーヴェンもエロイカ変奏曲で用いている。フォルテピアノのほうが演奏しやすいのかもしれないと思う。

コーダはやはり舟歌なのだろう、わずか4小節だが、ロ長調に戻るための重要な経過部があり、再現部のロ長調になる。この経過部は、4声のポリフォニーで、気合入れて作った部分なのだろう。見事に、ロ長調に着地する。

遠くへ、漕ぎ出してしまって、後ろ姿を見送っている。オスティナートのリズムに、ソプラノは軽く、軽く、消える様に。ずーっと通奏低音のようにHの音が鳴り続ける左のベースの響きを大切に、良い感じに歌がからむとよい。

消えてしまった、と思うような響きで、ペダルの使い方を繊細に最後の少し東洋的な音を楽しみたい。

この作品62の2曲は、水の形をした宝石のようだと思うのである。

ショパンという作曲家がこの世に生まれてくれて、本当にわたしたちは幸せだと思う。

演奏動画はショパンコンクール2015年、第一次予選のケイト・リウです。

https://youtu.be/UFlIvrEZ3nU

平均律第一巻 序

  「うまく調律されたクラヴィーア(Das Wohltemperirte Clavier)、あるいは、長三度つまりドレミ、短三度つまりレミファにかかわるすべての全音と半音を用いたプレリュードとフーガ。音楽を学ぶ意欲のある若者たちの役に立つように、また、この勉強にすでに熟達した人た...