ノクターン 作品27-1
Chopin, Frederic:Nocturnes Nocturne No.8 Des-Dur Op.27-1 CT114
1835年、ショパンはパリにいた。サン・ドミニク街のホテル・ド・モナコは、オーストリア公使の館となっていて、公使夫人であるアッポニイ伯爵夫人は月曜の夜にはサロンを、日曜の午後には演奏会を催した。
伯爵夫人は、ショパンにピアノを習っており、また、優れた歌手であった。ロッシーニも彼女のサロンの常連で、ウィーンでは彼のオペラに出演したこともあった。また、豊富な人脈を持つ彼女のサロンは、政治的に重要な場所であった。
ご存じのように、芸術は政治と無縁ではいられない。ロシア領になったポーランドに、もはや戻ることができなくなったショパンは、このサロンで、オーストリア皇帝を大叔父に持つヴォーデモン侯爵夫人にも紹介され、亡命ポーランド人として必要な知故を得ている。
ショパンはこの芸術の女神と呼ばれた伯爵夫人に、作品27のノクターンを捧げた。
彼のノクターンのなかでも、この作品27の二つのノクターンは、傑出した作品だと思う。
作品27-1、第7番のノクターンは、左手のアルペジオの上に旋律が乗る、A-B-A'の三部形式の作品。彼の特徴的な書法である、左の広域アルペジオ、演奏は地味に困難だが、空虚5度といわれる、第3音がないcis, gisの和声で展開され、最初に提示される主題は、やがて二声になり、冒頭および中間部はcis、同じ調性でありながら、冒頭のほの暗い、まさに宵闇のようなモノローグと、中間部の漆黒の情熱の対比、これこそがショパンだと思う。
再現部ではcisの主題はCisに変わり、朝日が差し込むように、ひとすじの希望とともに弾き終わる。これは、夢なのではないだろうか。
左手はつねに大きなアルペジオを弾く。手の大きさでカバーできる音域ではないと思う。右手は、極上の主題をあくまで漂うがごとく、中間部の情熱は、ほの暗さを残したまま、描いてほしい。どちらも、あくまで地球に音の重さをゆだねるようにして、左のどれか一つの指が強くならないように、ベースの音は少し残響が多くなる感じで注意深く弾いてほしい。
ペダル、濁らないように、よくよく音を聞いて、una cordaを上手に使って音色を変えるとよい。
このような曲を弾くためには、ペダルにあまり頼らずに、音楽を作れるようにしたいところである、難しいが。
Contessa Theressa Apponyiはこのような方だったようです。
参考音源は、今でも鮮烈に思い出す、ユリアンナ・アヴデーエワのショパンコンクール3次予選の演奏です。この演奏を聴いたときに彼女の優勝を予感しました。素晴らしかった。
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