2022年5月30日月曜日

幻想曲 作品49


Chopin, Frederic:Fantaisie f-moll Op.49 CT42

幻想曲。

どんな曲が幻想曲なのか。

決まった形式を持たず、作曲者の自由な発想で展開される作品、とかなんとか、音楽辞典には書いてある。つまり、どんな形式でも良いらしい。

わたしは小さい時から、変奏曲が好きだった。幻想曲と名の付くものは、大型の変奏曲であることが多く、したがって、わたしは幻想曲も好きである。モーツァルトの幻想曲ハ短調が原点かもしれない。

さて、ショパンの幻想曲。

冒頭の葬送風の部分はゆ~き~のふ~るま~ちを♪の元曲?としても有名であるが、中田喜直氏は引用とは言っていないようで、オマージュ、なのかな。

序奏 Marciaと記載、そして、Graveの指示。なんの行進だろうか。葬送なのか、行軍なのか。同じように弾かず、例えば2回目には左手の上を強調する、とか、大きくフレーズ感をとるようにして、重厚であっても前に進むように演奏したい。フレーズの最後を終わらせずに、次へつなぐようにとるとよい。

一転、三連符の移行部で変容する。クレッシェンドしながら、最高音Fに至り、フォルテシモで下降する。バスの音を大事に響かせるのは大切だが、あまり大仰にしないほうが良いと思う。この序奏部分、フラメンコのsalidaという導入部のように、と思って弾いていた。主役を呼ぶための、大事な導入部。

提示部 68小節から、agitatoでせき込むような主題が提示される。左のバスは上昇しながらせまってくる。そして、a tempoで主題がでる。すべてはこのa tempoのため。

展開部 143小節~
主題はヘ短調から変イ長調へと立ち上がってくる。壮大さを十分に感じられる箇所である。これでもかというほど、多彩なパッセージが繰り出される。が、理解不能なものがなく、エネルギーの向きはわかりやすい。転調には天才的なものがあるが、終着点を考えれば難しくはない。ポジション奏法の実践に最適な部位や、大型のアルペジオの実践も左手で堪能できる。小さく切り取ればエチュードとして有用だと思ったものだ。

ロ長調という冥界的な調に展開するlento sostenutoのエピソードでは、技術よりは感性というか、情緒というものがとても大切になると思う。技巧だけやらかした奏者では聞くほうがつらい箇所ともいえる。

再現部 236小節~

変ロ長調に展開したのち、各主題が再現されてくる。調性は変ロ長調のまま。イメージは前向きである。

コーダ 309小節~

322小節からは変イ長調のコーダになる。変イ長調のまま、assai allegroで輝かしく終わる。この曲はバラードと同じような多彩な構成成分を持つ楽曲であるが、コーダに関しては、演奏難易度は高くない。したがって、バラード4番などよりはアプローチが楽ではないかと思う。余談であるが、ジョルジュ・サンドとの喧嘩と仲直りを書いたという説がある。

幻想ポロネーズを弾くと、幻想曲だと思う。幻想曲を弾くと、ポロネーズだと思う。ショパンの中では、この二曲、同じようなものだったのではないか。葬送の重い足音、ソナタ2番の三楽章に通じる、終着点のない道行。しかし、この曲は、最後に、天を仰ぎD-durの和音で昇天するように終わる。希望をもって、終わる。そのように作っていきたい曲である。

長い曲で、14分ほどの演奏時間、全体像をどう展開するか、考えながら弾かないといけない。構成力を問われる。そういう意味で、大変勉強になった重要な曲であった。

この曲のあと、ソナタを弾いた。一つの楽章が6分程度で、場面が切り替わるソナタというものは、映像を作りやすいものなのだと、妙に感心したものである。だから、こういう長い曲も、ソナタの楽章が切れないバージョンだと思ってもいいのかもしれない。

音源はツィメルマン師匠の、1987年のリサイタルから。

https://youtu.be/A-GjbRtlweg


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