連載企画・小品を弾こう
2020年1月からの新しい時代、ピアノとの向き合い方は少し変わったように思う。
以前は、コンクール、とか、演奏会、とか、そういう公開の場所を作るのが目標だったのだけど、その機会が激減した結果、何のために弾くの?という根源的なところを考えざるを得なかった。最初のロックダウンのころ、オンライン演奏企画が流行した。会議システムがオンライン化し、ライブ動画でのコミュニケーションが飛躍的に可能になったからだ。
しかし、実際やってみると、音楽というものは、複雑だった。演奏する人、楽器、場所、観客、天気、湿度、時代、良い知らせ、悪い知らせ。全部包括して、やっとその演奏がなりたつのだ。わかっていたつもりだったけど、実演から切り離されると、こんなにも活動が難しいというのは、衝撃的でさえあった。もちろん、動画配信などでつながり続けることはできる。それは重要だし、逆に遠い世界の人と、それまでは会うことさえなかった人と、同じ時間を共有できた、それは素晴らしかった。
さて、実演から切り離されると、自分が何をしたいのか、という問いはずっと持ち続けていた疑念だったことに気づいた。いままでは、演奏会があれば、その時に向かって、とにかく仕上げるのだ。それも、客が好きだろうなと思うものを。これ受けるかな、という曲を。
演奏会がなければ。何を弾くか。何のために、弾くか。
自分のためである。隣の部屋でうるさいなと思っている家族のためである。そして、音波としてではなく届くであろうどこかで、聞いてくれる何かのために弾くのだ。
そうしたら、選ぶ曲は、おのずと地味になり、小さくなった。
派手な、客受けする曲は、ない。心の琴線に触れるような曲を選ぶだろう。
そんな中、企画・小品を弾こう、が生まれたのは、2020年の夏、友人をこのウイルスで亡くし、演奏会が4つ消えたあとであった。
企画といっても、わたしが勝手に弾くだけだけど。
第一弾は、ロベルト・シューマンの「子どもの情景」にした。
「トロイメライ」や、「異国から」など、おそらく導入期のこども時代に弾くことが多い小品から成る曲集だが、実にシューマンらしい珠玉の曲集だと思う。
ということで、内容は第2回から、の予定。
0 件のコメント:
コメントを投稿