幻想曲ハ長調 「さすらい人幻想曲」
D 760 Op.15 Schubert, Franz : Fantaisie 'Wandererfantasie' C-Dur D 760 Op.15
仕事が忙しいとなかなか記録まで手がでない現実であるが、学生時代に弾いてダメだった曲を弾きなおすというチャレンジをしている。今しかないでしょう。眼とか筋力とかいろいろ不具合が出てきたもの。
シューベルト初期の傑作、さすらい人幻想曲は切れ目なく続く4つの部分から成り、速度、調性、拍子が明確に異なり、楽章と考えてよいと思う。しかし、曲としては1つの楽曲。つまり、この作品は1楽章制ソナタ風幻想曲である。生前しかも作曲後まもなく出版されており、いわゆる作品番号としてはOp.15である。
シューベルトは早世したので、出版順のOpusでは作曲年代がわかりにくい。Otto Erich Deutschが作成したシューベルト年代順作品表題目録の番号がシューベルトの作品番号としてのドイッチュ番号である。
この傑作、シューベルト本人が「こんな曲は悪魔にでも弾かせてしまえ」と言ったようだが、たいへんな難曲である。しかし、今どきの時代では、ものすごく難しい曲は他にもたくさんあり、古典派の難曲の域を出ないと個人的には思う。しかし難しいですよ。ほんとに。
単一楽章の大曲という点でリストのロ短調や、スクリャービンの4番,5番を先取りしたような恐るべき先取性が見える。一方で終楽章にはフーガが用いられており、最終的にベートーヴェン的であるという印象を与える。一方、ソナタであれば必ずあるはずの再現部は省略され、展開の自由度は高く、楽曲スタイルは幻想曲であることがわかる。
さすらい人、の呼び名は、第二楽章adagioに引用されたD649の歌曲に由来する。詩はゲオルク・フィリップ・シュミット・フォン・リューベックの『よそ者の夕べの歌 Des Fremdlings Abendlied』である。この世のどこにも安らぎはないというさすらい人、このリートはシューベルトわずか19歳の作である。何という若者か。
谷は霧にかすみ、海は荒れている。表すべきことは、この風景。霧、嵐、こころの嵐。
さて、練習の仕方について。
この曲は、体力勝負ともいわれる。最後の1ページはアルペジオと分散和音で成立する定型文であるから、ここに大きな努力は不要。攻めどころは3,4楽章、苦手な音型を抽出して攻めること。譜読みは難しくない。このシューベルトは極めて古典だから。技巧的難しさはベートーヴェン的な1,3,4楽章にあり、力ずくで弾かないことが重要である。パワフルな楽曲なのだが、白眉は二楽章adagioである、ここを幻のごとく美しく弾こうと思うのであれば、この曲を弾く理由になるだろう。
繰り返すようだが古典だから、弾けるはず。あせらず、脱力して、オクターブ跳躍が続くところこそ、息を吐いて、呼吸して。歌うことを怖がらず、大きく歌のラインを表現して、細切れにならないように。
楽譜はHenleをお勧めする。やはり原典版が良いと思う。ペダル標記がないが、耳で学ぶか、春秋社を見るとよい。ご自分の音を聞く耳をお勧めする。ほか解釈版Peters等、あるが、例えば2楽章最後の左手ファのシャープがあったりなかったいと違いがある。好きな音を採用すればよいのではないかな。
参考音源二つ
アヴデーエワが2019年のオペラシティで弾いたさすらい人、わたしはこのリサイタルを聞いていて、この宿題を思い出した。ありがとうユリアンナ。
ドイツの至宝 ヴァルトラウト・マイヤーのさすらい人(2005年東京公演)
文学や絵画や政治とかかわりがある楽曲は、その背景をできるだけ学んだほうが良いと私は思う。シューベルトが歌曲にした原詩がこちら(4連目の1行目、FreundeはもとはTraumeだった)。
Der Wanderer/Georg Philipp Schmidt von Lübeck
Ich komme vom Gebirge her,
es dampft das Tal, es braust das Meer
ich wandle still, bin wenig froh,
und immer fragt der Seufzer: wo?
Die Sonne dünkt mich hier so kalt,
die Blüte welk, das Leben alt,
und was sie reden, leerer Schall,
ich bin ein Fremdling überall.
Wo bist du, mein geliebtes Land?
Gesucht, geahnt und nie gekannt!
Das Land, das Land, so hoffnunsgrün,
das Land, wo meine Rosen blühn,
Wo meine Freunde wandeln gehn,
wo meine Toten auferstehn,
das Land, das meine Sprache spricht,
O Land, wo bist du?
Ich wandle still, bin wenig froh,
und immer fargt der Seufzer: wo?
Im Geisterhauch tönt's mir zurück:
"Dort, wo du nicht bist, dort ist das Glück!"
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